ツララナビゲーション

ツラナビな日記TuRaNaVi Blog

2015年11月18日

過去の遺産

外付けHDDを軽く整理してたら、何年前に書いたかも忘れてしまった話が出てきたので、ブログを長く更新してなかったし、これも何かの機会かと思いペタリ。

みつかんの世界とも被るとこがあるけど、設定が入り乱れているのでスピンオフ的な仕上がりなのかな^p^とはいうものの仕上がってない、途中。はじまり方がテンプレ過ぎてもうね!!

よっぽど暇にならないとこれの続きを書くことはないなぁと…というかみつかんの設定で決定している以上、こっちの話を進めてもしょうがないんだが・・・w

※長いし、かなり文章がおかしいとこあるので注意。

 

 

 

全ての事象が繋がっている。

あの人と喋ったことが。
あの人が物を落としたことが。
あの人の呼吸が。
あの人が生きているということが…

全てが、その瞬間にその場所で行われないと現在には進めない。

1つでもその事象を変えてしまえば、今の自分には成れない。
今の自分と違う自分がすぐ隣の時空に存在すること。
それがどれほど恐ろしいことか。

それは本当の意味での恐怖。
そして、人間はその恐怖さえも慣れで日常としてしまう。
呼吸や歩行と同様の意識しなくなる感覚。

しかし、成長してその恐怖をもう1度意識したとき、ある結論にたどり着くことになるだろう。

それは、 諦め 受け入れ
中には、そんなの気にしたってしょうがない、と言う人もいるだろう。
大体の人はそこで思考を解除する。

だが、世の中は広いもので、どの回答にも属さない回答を持つ人がいた。

恐怖を体験したヒトである。

 

<髪が風に靡く時~Divine wind~>

//dream

暗い空。

ガサッカサッ

近くで聞こえるのは、葉っぱが擦れる音?

森の中にいた。
道なんてない、ただ草木の多い茂る森。

「ここは…?」

ここが何処か、知っている気がする。

―――…ゴ……ン…サイ……

女の声が聞こえた。

「誰?」

―――よ…に……ロ…

女の声だが、さっきと声が変わった。

そう考えたときには、視界は完全な白に染まった。

//目覚め

暖かい。
目を開くと窓から光が差し込んでいて、ちょうど顔にあたっていた。

「眩しいなぁ」

スースー

とりあえず腕を組んで上へ伸ばす

「んっ!んーー。フー」

スースー

よし!今日もがんばるぞー!

スースー

勢いよく布団を跳ね除けると

「むにゃむにゃ」

「うお!?」

そこには、幼馴染の珠(たま)が丸まっていた。

「なんだ、珠か」

なぜか安堵しつつ、同じ布団に女の子が入っているという事に関して恥ずかしさを覚えた。

起こしにきてくれたようだが、眠たかったのだろうか?
本人は猫のように気持ちよさそうに寝ている。

起こすに起こせないなぁ…。

珠は、見る限りでは準備はしてきているようだが、制服のまま布団に入ってしまっている。

「俺の準備から始めるか」

一度は跳ね除けた布団を珠の上に乗せた後、準備をしに1階に降りる。

トースターにパンを放り込みタイマーをセットする。

「えーと、食器、食器…」

実は、引っ越してきたばかりなので家の詳しい構造をあまり把握できていない。
この家は、確かに俺の家なのだが実際に住んでいたことはない。

両親は俺が生まれてまもなく失踪してしまったらしい。
その両親の親友であった、実質上での育て親であり珠の母である神山 境(かみやま きょう)さん。
そして、その夫の神山 拳(かみやま けん)さん。
この2人は、代々神山家で管理してきた八風神社に仕えている。

俺の両親は境さんと拳さんに俺を託した後、失踪してしまったらしい。
俺を残して行ってしまった両親を恨んだりはしない。
そのおかげと言っては難だが、今までいろいろな人々に出会い、仲良くなった。
そのことにはとても価値があることだと思っている。

「ありがとう…」

昔は…恨んでいた。
周りのみんなと違うことに対する、疑問。
一時期、境さんや拳さんに倦怠期のようなものを迎えていた期間もあった。

しかし、ある出来事がその考えを変えた。

チーンッ!

パンが出来たようだ。

同時に
「うわぁ!」
2階から珠の叫び声が聞こえた。

「お、起きたか」

ドドドドドド

階段を駆け下りる音。

「信也ーーー!どこにいるの!隠れてないで出てきなさい!!」

起きて早々忙しいやつだなぁ

ドンッ!
勢いよく扉が開かれ、制服姿の珠の姿が現れた。

「信也!!」

「朝からテンションが高いなぁ、何かいいことでもあったのか?」

「そんなわけあるかー!信也を起こしに着たら、ふかふかの布団で気持ちよさそうに寝てるから、その材質を確かめようと触ってみたら止まらなくて、ついつい寝ちゃっただけじゃない!」

「一気にしゃべったな、このじゃじゃ馬め!」
寝顔はあれだけ大人しそうなのに、と心のうちに納めて。

「信也がいなくなってびっくりしたんだからね!」

「飯を作りに降りてただけじゃん」

「ふん」

そっぽを向かれてしまった。
こうなってしまった珠をなだめるのは、難しい。

だが、俺には秘策がある!!

たしかこの辺に…。
食器棚の引き出しを開けるとお菓子が入っていた。
そこから、チョコを取り出すと

「ほーら、珠。チョコレートだぞぉ」

珠の前にチョコをちらつかせる。

「え、餌で釣る気?」

「そうか…俺、そんな風に思われていたんだ…なんだか悲しいよ…」

わざとらしく、悲しい表情を作り床に倒れこむ俺。
そんな俺の演技を見抜いたのか、珠がジト目になる。

「シンヤ…」

声が低くなったのを期に俺は謝ることにした。

「ごめん、釣る気だった…」

謝ると珠はため息をついて。

「ばか…チョコをよこしなさい!釣られてやるわ!」

「ありがとうございます」

珠の小さな手にチョコを3粒置くと。

「…」

珠はこっちをジト目のまま見ている。

お姫様はチョコを御要望のようだ。
でも実は俺もこのチョコは楽しみにしていたりする。

「…」

「ええい、くれてやる!」

引き出しからチョコの入った袋を取り出すと、袋ごと珠に渡した。

「よろしい」

満足げに答える珠。
早速袋からチョコを取り出し、食べ始める。
おいしそうに食べるなぁ。

ふと…。
思考を一時停止。

危ない危ない。
考えてはいけない領域に踏み込むとこだった。

「あのー、チョコを1粒いただけませんでしょうか?」

「やらん。パンでも食っとれ」

即答された。
諦めるしかないようだ

「はい」

と小さく答えて、トースターから取り出したパンをほ口に突っ込んだ。

まったく誰に似たのやら。
まぁ、境さんと拳さんか…。

珠の両親は、豪快な人たちである。
派手なことが大好きで、本当に神職をしているのか疑いたくなるくらである。
神職に性格が関係するかは分からないが、とにかく豪快なのである。
今回の引越しに関しても…

===回想===
春休みの登校日に学校で進路調査があった。
その話が神山家で珠から出た。

「私って神社つぐんだよね?」

「当たり前だ」

さも普通かのように答える拳さん。

「はぁ~」

珠はため息をついた。

拳さんは、こっちを向いて

「お前はどうする?」

拳さんはそんなことを聞いてきた

「まだ、職については考えていません。
でも、いつかは1人で暮らしていかないといけないし、親の家があるのならそっちで暮らそうと考えています」

「そうか!!それなら早いほうがいいな!来週あたりどうだ?」

拳さんは快活よくそう言い切ると。

「ええええ」

さすがに驚いた。まだ自分でもよく分かっていないのに、即決され唖然とした。

「ちょっとお父さん何いってるのよ!?信也だって考えているだけでまだ決めたわけじゃ…」

ない。と、俺の考えを知っていた珠はそういい切ろうとしたが。

「へ、くしゅん!!」

大きなくしゃみに打ち消されてしまった。

「おかぁさ~ん」

意見を聞いてもらえず母になきつく珠。
しかし、そんな気持ちを知ってかしらずか境さんは、

「いいんじゃない?」

「ちょっと!」

「まぁ落ち着きなさいって、あの人はどう考えてるか知らないけど、いいことなんじゃないかしら?」

といいながら拳さんを見る。
続けて

「なーに、珠ちゃん。寂しいの?離れてみると気づくことあるかもよぉ~」

意味深な顔をしながら珠に話しかける境さん。

「な、何言ってるのよ!そんなわけないでしょ!信也なんてどっかに行っちゃえばいいのよ!!」

いきなり顔を真っ赤にした珠がそんな残虐なことを言ってきた。
何もいえずその光景を眺めていた俺が我に返った時には、俺の引越しが決まっていた。

引越しのときには珠が

「ごめん…」

と一言だけ言って、手伝ってくれた。
そのおかげで引越しの作業が楽になったので珠には感謝している。

===

パンを食べ終え牛乳を飲み干すと、チョコが3粒飛んできた。

「お?」

「あげる」

顔は横を向けたままだが、もう怒ってはいないようだ。

「あ、ありがとう」

「それよりものんびりしないで、さっさと学校に行くわよ!」

「あ、やべ!珠の家より遠いの忘れてた」

チョコを口にほおばると、着替えるために2階へダッシュした。

「玄関で待ってるわよー」

ドタバタ着替えて、珠と一緒に玄関を出た。

少し寒かったが、外は晴れていて午後からは暖かくなりそうだ。
今日は始業式。
2人はいつもより少し早足で登校した。

 

//登校中

「もう、大丈夫じゃない?」

肩で息をしながら珠が尋ねてきた。
途中信号のために走ったりしたので、ちょっと疲れたようだ。

「そうだな」

時計に目を落とし時間を確認する。

この時間でここまでくれば大丈夫だろう。

足並みを遅め、他の生徒の群れに加わる。

「みんな元気にしてるかなぁ」

「この前会ったばっかりだろ?」

実際に登校日に会っているので、そんなに会っていないわけではない。

「1週間くらい会わなかったら十分気になるの!」

「はいはい」

そんな会話をしていると
学校の正門の横で人だかりが出来ていた。

「どうしたんだろう?」

「とにかく行ってみよう」

そういって、早足で人だかりに近づいていった。

近くまで来てみると学校の体育教師の近藤が生徒をあしらっていた。

「コラー!さっさと校内に入らんか!」

かなりうるさく怒鳴ったが聞く生徒は少ししかいない。
それに後からどんどん生徒が登校して来るのであまり意味を成していないようだ。

奥のほうに進むとそこには、1週間前まで立派に咲いていて今頃は満開に咲くはずであった桜の木がなぎ倒されていた。
そして、その横の学校の壁がへこみんでいて歪が出来ていた。
辺りの地面も抉れているようだ。

「おう、信也じゃないか!見ろよ、桜の木が大変なことになってるぜ」

近くにいた悪友の 1 一 (たていち はじめ)が話しかけてきた。

「そんなの見たらわかるでしょ、ハジメ」

「おお、珠もいたのか朝からお熱いねぇ、フゴッ!」

そんなハジメに蹴りを入れる珠。

こんな人ごみの中なのに、コンパクトで見事な蹴りなり…。

倒れこむハジメ。

「ちょっと何するのよ!セクハラ?」

あらぬ誤解を受け始める。
かわいそうに…。

「なに?セクハラ?だれよ」

「こいつ、2組のタテイチよ」

「サイテー」

「まて、今回のは誤解だ!断じて違う!」

必死に弁解するハジメだが。

「勇者が現れたぞ!」

「ま た お 前 か」

聞いてくれる生徒はいないようだ。
…ドンマイ、ハジメ。強く生きろよ。

「お前ら早く中に入らんか!ん、どうしたんだ?」

騒ぎを聞きつけたのか近藤が近づいてきた。
さて、騒動に巻き込まれる前に立ち去るか。

「珠、行くぞ」

「え、でも…」

珠は、自分のせいでこの状態になってしまったことを気にしているようだ。

「大丈夫、ハジメならわかってくれるさ。それに今に始まったことじゃないだろ?」

そんな無責任なことをいって珠をたしなめる。

「うん…」

どの道、近藤に捕まったらまずいので、珠を人ごみの中から引きづり出していく。

人ごみから出る直前でつまずいてしまった。

「うわっ!」

咄嗟だったが、珠の手は放したので引きづられることはないだろう。
何とか足を前に出して持ちこたえようとするが。

「きゃっ」

前を歩いていた女の子にぶつかってしまった。

「ごめん!」

倒れるのは避けれたが、ぶつかってしまった。

「いえ、いいんです」

一瞬遅れてこの子が、同じクラスの高西 三毛子(たかにし みけこ)ということに気づいた。
彼女は生徒会に所属していて、クラス内では大人しい子である。

「あ、高西か。本当にすまん」

「ほんとに大丈夫だから…」

「信也ー、大丈夫~?」

人ごみから珠が出てきた。

「お、三毛子さんおはよ!」

「おはよう」

「三毛子さん、桜の木が折れてるんだよ!いったい何があったのかしらね」

ニコニコしながら今見てきた現状を語る珠。

こういう話題みんな好きだよな。
と思いつつ高西を見ると。

「さぁどうしたんだろう…」

そうでもなさそうだ。
きっと生徒会でもこの議題が出るから、そのことを考えているのだろう。
生徒会も大変そうだ。

「ごめん、私急ぐから」

そういって、高西は走り去ってしまった。

「三毛子さん、どうしたんだろう?」

純粋な疑問を俺に聞いてくる珠。

「生徒会だろ」

と、先ほど考えたものを述べた。

そして、俺たちも高西さんを追うように校舎へ入っていった。

//昨夜(はじめに入れとくべきだったなw)

砂利道を走る音が夜の空間へ広がる

1人が追われ、もう1人が追っている。

「追いつかれる…」

前を走っていた少女は、苦悩の表情を浮かべながら逃げるように走り続ける。

「目標、未だ確認できずか…」

黒衣を着た追跡者は大きな帽子を押さえながら走っている。
男の声だ。

距離は僅かだが縮まっている。

「邪魔だ」

黒衣はその腰に挿していた棒を手に取った。
するとその棒は紅く光を放ち始める。

「チッ」

前を走っていた少女が舌打ちをした。
そしてそのまま足を滑らせながら止まり、後ろを振り向く。

ここから先は、いけない!

この先は学校がある。

「ほう…」

それに合わせるかのようにして、追跡者も足を止める。

「何が目的ですか?」

冷静な声で少女は問う。

「お前たちが隠しているものだ」

殺気を放ちながら答える男は続けて

「さぁ言え、アレはどこにある?」

「アレ?何のことでしょうか?」

「お前は知っているはずだ」

「知ってたとしても、教えるはずないでしょ?」

挑戦的に。
さっきまでの苦悩の表情は嘘だったかのように少女は笑う。

「ふん、御託はいい、力ずくで聞くまでだ!」

黒衣の男は勢いよく棒を振った。

すると棒に帯びていた光が棒から離れものすごい速さで飛んできた。
しかも、少し遅れて地面から抉れてきている。

「光に触れてはいけなさそうね…」

とつぶやいて少女は思考する。

遠距離攻撃型か…厄介…
でも、遅れてくる攻撃のおかげで軌道が読める!
しかも、次の攻撃までのラグがある。
連続攻撃しないのはそのためね。

一瞬の間に、少女は分析をする。

光を避ける。
光は少女の横を通り過ぎて後ろで壁にぶつかった。
軽く後ろは気にしていたが、跳ね返って襲ってくることはなかった。

「よくかわしたな、褒めてやる」

「こんなの、バレーボールを避けるのより簡単…」

妙な表現だが、先ほどの光の速度はバレーボールよりも速かったのは確かだ。
そして、少女は後ろに手を回す。

「なめた口ききやがるじゃねぇか」

「学校を破壊させるわけにはいきませんここであなたを倒します」

次の瞬間には少女は動き始めていた。

「やってみろよ!!」

言いながら男はさっきと同じように棒を振り下ろす。
紅い光が棒を離れ、少女に向かう。

しかし、少女は速かった。
光を紙一重で避ける。まるで、必要最低限の動きしかしてない様だ。
そして、初めの追跡をされていた時よりはるかに上回る速さで男に接近する。
後ろ手に回していた手はいつの間にか前に組まれており、2つのナイフが握られている。

「…」

少女は無言で男に近づく。

男は、少女の動きを読んでいたのか、構えを取って待っていた。

「いらっしゃい」

にやりと笑う。
しかし、ある異変に気付く。

少女の眼が、野生の動物のごとく、いやそれ以上に青白く光っていたのだ。

「…」

無言でナイフを男に向ける。

「チッ!星狩の能力者かっ・・・。やってやるよ!!」

男の顔が一気に真剣になった。
そして、構えていた棒を少女に振り下ろす。

少女は双方のナイフで受け止める。
男は連続攻撃を繰り出し、少女に襲いかかる。
受け止めていては埒が明かないと判断した少女は、棒を器用に受け止めた。
しかし、そこで棒からナイフへ一気に光が流れてきていたのだ。

「!?」

流石に意外だったのか、とっさにナイフを打ち捨てる。
捨てた先では、ナイフが爆発していた。

得物がなくなった少女は、男と距離をとった。

「気付かれちまったか。もう少しだったのによう。まぁいい」

連続攻撃…相手にあの光を送っていたのか…

「手強い…」

「ありがとよ。だがそんな目で見られてたなら、なんだかなぁ~」

男は冗談でも言うかのような口調になっていた。

「でも…」

少女はそういって、体勢を低くする。

すると、空気が変わった。
一瞬のうちにその場に緊張が走った。
風さえも止むかのようだ。

「これがおまえの能力か、眼が光るだけじゃ…ないな」

相手をたしなめるように言う。
男は、少女が危険な存在であることを悟った。

「…」

少女は以前、体勢を低くしたままである。

やがて、ゆっくり顔を上げ始める

男は気づいた
月の光に照らされる、少女の影が人ならざるモノの形になっていることに

「お前…」

月の光は雲に遮られ、暗闇が訪れた。

光る眼が髪の隙間から見える角度になり

「まさか…」

完全に少女が前を向き目があった。

その瞬間、少女の姿は消えていた。

背後から、ナァー、ナァー

と、猫の鳴き声を確かに聞いた。

「闇猫………」

男は地に倒れこんで、動くことはなかった。

月が雲から出てくる頃には、黒衣の男も、少女の姿も消えており、

ただ、壁の傷痕と折れた木があるばかりだった。
//始業式終了

結局ハジメが現れたのは、始業式が終わってからだった。

「さぁ!今日もがんばるぞー!」

そんな掛け声をあげながら教室に入ってきたハジメは、かわいそうな子だった。

「さて帰る準備でもするか」

「え?楽しい楽しい新学期は?」

本当に疑問を抱きながら聞いてきた。
どうやら気づいてないようだ。

「ハジメ、今日から新学期だが、今日は午前中だけだぞ」

「なるほ…て、ええええええええええええ」

「俺の始業式は!?」

「別にお前の始業式ではないがな、おわったよ」

冷静に突っ込みを入れてみる。

「ノオオオオオオオオオ!」

ハジメは奇声を上げながら廊下へ飛び出して行った。
教室にいた連中はしげしげと見ていたが、やがてつまらなそうに視線を元の場所に戻していった。

「真也、早く捕まえてきなさいよ」

近づいてきた珠がそんな事を言ってきた。

「ええ?なぜに俺が?」

「ホームルーム長引いちゃうじゃない」

「確かに…」

周りを見渡しても、ハジメを探しに行きそうな奴なんていなかった。

「ま、行ってくるか…」

「がんばってね~」

いつものように見送る珠。

まぁ、この先も何回もこんなことになるんだ、1,2回増えたところで…
なんだか、いいように使われているようで悲しくなってきた。

「それにしてもどこに行ったんだ、あいつ」

手掛かりが、ないんじゃ動きようがないな…。

しばらく走っていると、トイレ帰りと思しき同じクラスの男子集団に会ったので、聞いてみることにした。

「ハジメ見なかったか?」

1番目に聞いた男は、名を給仕 迷雪(きゅうじ めいせつ)という。
休日に街で見かけられ、謎のビル『明戸』の地下に入っていくことが目撃され、裏組織の会員だとも噂される男だ。

「すまん。分からんな。ところで、休日もし暇なら街に遊びに行かねえか?きっと新しい、世界が君の前に現れるだろう!」

「いや、休日は予定が入っているので…」

予定が入っているのは本当なので普通に遠慮させてもらう。
新世界か…少し興味が沸いたが、なにかがそれを止めた。

2番目に聞いた男は、名を無色 周(いろなし しゅう)という、珍しい名前の持ち主だ。
こいつは、学園のアイドル、出茂 零子(いずも れいこ)と同じ弓道活に所属していたりする。

「ごめんけどわからない。それよりも、心太好き?」

「あぁ、心太か。いや、あんまり好きじゃないんだあの触感がなんともね…」

「そうか、君となら分かり合えると思ったんだが残念だ」

無色と書いて”いろなし”とは珍しい読みだなぁ。
ところで、心太に特殊な感情でも抱いているのだろうか…。
まぁ、俺にも好きなものはあるので深くは追求しないでおこう。

3番目に聞いた男は、ノ川 巛彡(のがわ せんざん)といって、ガタイのいい奴である。

「ハジメぇ?そんな迷子知らないな、俺もとある迷子探してるんだけど知らないか?」

「ごめん、知らない。見つかるといいね…」

とても探してるようには見えないのだが、聞き返されてしまった。

4番目に聞いた男は、桃根 刃繰(ももね はくり)という、授業中いつも何かをしている怪しい奴だ。

「さぁ、知らないな。ところで、君も我らの同志にならないかい?同志になったらわかるかもしれないよ」

「いえ、遠慮させていただきます。」

流石、怪しい男だ。
丁重にお断りさせていただこう。

て、情報1つも入ってこねえ!

4人と別れた俺は、改めて探すことにした。

ハジメの奴、いったい何考えてるんだ。

玄関の近くまで来てみたが、まさか外にはいないよな?

靴箱を確かめるが、靴は入ったままだった。

「よし、中だな」

確信を得ると行ってない体育館の方へ向かった。

//体育館

体育館に行くと、普段しまっているはずなのだが、ドアが少し開いていて鍵もかかってないようだった。

「まさかの、1人始業式!?」

入ってみると、奥の倉庫の前に女子生徒の後ろ姿が見えた。

近づいてみると、気配を察知したのか女子生徒はすごい勢いでこっちに振りむいた。

「あなた、が?」

振り返りざまにそう聞かれたのだが。
長い髪を震わせ振り向いたのは生徒会長、鬼塚 鼎(おにつか かなめ)だった。

「え?」

生徒会長の下にハジメが倒れているのが見えた。

一瞬理解できなかった。
しかし、すぐに気を取り直して

「ハジメ!
生徒会長、どういうことなんですか?」

「私にきかれてもなぁ。どうやら気絶しているようだけど」

会長は、穏やかな表情で言った。
どうやら倒れているハジメを会長が発見したらしい。

「でも何で体育館に…」

とりあえずハジメを起こそう。

「おーい、始業式始まるぞ。起きろ」

揺すってみると瞼が少し動いた。

ほっぺたを軽くつねってみると、ハジメの目はパッと開いた。

「始業式は始まらないが、帰りのホームルームが…」

始まるぞ。と言う前に、ものすごい力で首をつかまれた。

「ソノ、クビヲヨ、コセ」

「ハ…ジメ?」

苦しい、どうしてハジメが俺の首を絞めているんだ?
状況も読み込めないまま動揺していると。

「破ッ」

気合いの入った掛け声とともに、会長が突っ込んできた。
長い髪がひらひらと会長の後を追う。
そのおかげで、首をつかんでいた手が解除される。

「がはっ」

酸素を求めて息をする。
まだ首が苦しい。
一体どうしたというのだ。

「まだ、だったのね…」

突き飛ばされたハジメは、何事もなかったのように起き上がる。

「一体どうなってるんだ!ハジメどうしたんだ!」

「落ち着きなさい、シンヤ」

「…クビ、オマエ、ノクビ…」

いつもの快活のある声ではなく、とことん低い声だ。
それは、もはやハジメのものではなかった。

「会長、何で俺の名前を?」

「さぁ、何ででしょう?でも、今はそんなこと聞いてる暇はないようね」

「ミツケ、タ、クビ、ミツケタ」

ハジメが人間離れしたスピードで突進してきた。

「ちょ」

とっさに避けると、ハジメはそのまま倉庫の外へ飛び出していった。
その隙をついて、倉庫の重い扉を閉めて鍵をかける。

「いったい、何がどうなってるんだ!」

そういって、会長のほうを見る。
会長も俺を見返してきた。

「しょうがないな、教えてあげよう。」
会長はそういって、真剣な表情になり
「彼は操られているの」

「操られてる?会長、何か知ってるんですか?」

「うん、知ってる」

「教えてください!ハジメはどうしたんですか?どうやったら元に戻るんですか?」

「生徒会に入ってくれるのなら教えてあげるよ!」

淡々としゃべっていた会長が、急に表情を明るくしてそんなことを言ってきた。

「わかりました。なんでもしますから、早く教えてください!」

とにかく今はこの状況をどうにかしたかった。

「いい返事ね」

ドンッ。ドンッ。

「おわっ!」

急な出来事だったので、思わず扉から離れる。

「オ…、ク…ヨコ…」

ハジメの姿をした”何か”は、ドア越しに何か言っているが聞き取れなかった。

ドンッ。ドンッ。

逃げるにしてもここは倉庫で、後ろの窓にも格子がついていて外に出ることが出来ない。
とにかく、会長の話を聞こう。
次の行動はそれから決める。

ギギギギギ

ドアが軋み始めた。

「会長!」

鍵の所が、ありえない音を立て始める。

「そうね、とりあえずこの場を収めればいいわね」

会長はドアに近づく。

「話を聞かせてください」

「そうね、でも見たほうが早いわ」

そういって俺に笑いかけた。
一瞬、誰かに似たものを感じた。

そして、あろうことか倉庫の鍵をあけた。

倉庫の扉は、大きな音を立てながら開いた。
こんなに重い鉄の塊が勢いよく開くなんて考えがたいが、扉が開くまでに一瞬とかからなかった。

ハジメにそんな力はもちろん、ない。

そして倉庫の前には、大きく両手を広げたハジメ。
中には、会長。
その表情は後ろからでは確認できない。

「それ以上、その男子の体を壊させるわけにはいかない」

「…」

ハジメと会長の視線が交差する

「一瞬で決める」

ハジメはワンテンポ遅れて

「ジャマ、ダ」

開いていた両手を一気に会長へ向かわす。
まるで、プレスをするかのように。

「あ」

俺は唖然とした、逃げられない。
あんな怪力で攻撃を食らったら、ひとたまりもないだろう。

思わず目をつぶる。

俺はなんて情けないんだ。
次は、俺か?俺がやられる番なのか?

恐る恐る目を開けると。

そこには、会長が立っていた。
そして、足元には、ハジメが倒れていた。
相変わらず、会長は背を向けたままだ。

「シンヤ、これが私たちの世界」

「え?」

何が起こったのか?
目をつぶった、2,3秒の間。
確実に何かが起こったはずだ。

「え?じゃないでしょ!見たよね?」

「はい」

「じゃあ…」

「会長がやられそうになるところまで…」

「えええええええ」

会長は力なく倒れこむ。
悲劇のヒロインのような感じに足を組み、ハンカチをかみ締めてそうな表情をする。

「か、会長?」

「私の晴れ舞台が…」

なんという乙女の表情。
これは、年上の綺麗な会長にこんな顔をされたら、なんとも言いがたい…。

「護身術ですね!!いやーすごいです!あんな凶暴な男を一瞬で倒しちゃうなんて」

護身術か、それなら説明がつく。
達人級になると、一瞬の世界らしいからな。
そうか、会長は達人だったのか。

と、自分の中で回答を導き出す。

「そう…」

会長は少し気を落としているのか、小さな声で答えた。
やはり、そんな術を持っているということは、女の子にとって恥ずかしいものなのだろうか。

そんな思考の中、何かが引っかかった。
「凶暴な男…ハジメ!」

ハジメは今尚、倒れたままだ

「急所を外してあるから重症にはならないはず。それに次期、先生が来るわ」

すかさず会長が答える。

「いつの間に連絡を?」

「あなたが来る前よ」

そうか、俺が到着していた時には、すでに連絡してあったのか。
そして、おれが近付いて…首を…
一番大切な所を忘れていた。

「会長、ハジメが操られていた、てどういうことなんですか?」

「そのことだけど、生徒会室で話しましょ」

と言いなが会長は歩き始めた。

「ハジメをおいて行くんですか?」

「先生が来たわ、後はそちらに任せます」

すると、入口の方から我がクラスの担任で情報教師の筒島が入ってきた。

会長は、筒島の方に近づくと何かを話し始めた。

俺も2人の方に歩いていく。
会話を終えたのか筒島がこちらへ向かってきた。

「やぁ、在月君じゃないか」

「どうして、先生が?」

「どうしてって、僕は生徒会顧問だよ」

と笑いながら言ってきた。

「なるほど」

「じゃあね、みてくるよ」

生徒会顧問なら仕方ない。
いづれ、会議でもこの話題は上がることだろう。
筒島が対応してもおかしくない。

「て、んなわけねぇ!」

気づいた時には筒島はだいぶ離れたとこにいて、背を向けたまま手を振った。

図ったな!

いくら生徒会顧問でも、こんな状況で冷静でいられるわけがない!
きっと筒島も何か知っているに違いない。
俺はうまくはぐらかされたようだ。

「行くわよ~」

会長は体育館の入り口から俺を呼んだ。

「今行きます」

筒島のことも気になったが、今は目の前にあるものから片付けていこう。
そう考え、会長のもとへ向かった。

//生徒会室

生徒会室は体育館を出て少し歩いたところにある。

会長はポケットから鍵を取り出し、生徒会室の扉を開けようとした。

しかし、鍵を差し込む前に手を引く。

「お、もう誰かいるようね」

どうやら他の生徒会役員がきているようだ。
ところで、生徒会って何人いるんだろう?
いずれわかるであろう事を考えていると会長は思いきり扉を開けた。

「ちわっす!」

会長は元気よく入る。

「お邪魔しまーす」

俺はその後に続いて恐る恐る入る。

中に入ってみると会議室ぽい感じに長机が置いてあり長方形に組んである。
その奥の窓際に、1組の大きめな机と椅子が置いてあった。
どうやら、生徒会長の席はあそこのようだ。

視線を横に移すと、ちょうど日差しの当たる所に高西さんが居た。
椅子に座ってこちらを見ている。

「こんにちは」

膝元にちょこんと文庫本が開かれたまま置いてあった。
どうやら本を読んでいたらしい。

「おう、こんにちは」

「ミケコ、早かったわね」

「ええ、先生が早かったので」

そう答えて、高西は本に視線を戻した。

筒島は会長に呼ばれて体育館に来たのなら、恐らく速攻でHRを終わらせたに違いない。

「なるほどね。まぁ、適当に座ってくれたまえ」

会長は部屋の奥に進みながら椅子を勧めてきた。

「あ、はい。どうも」

生徒会室というだけでなんだか緊張してしまう。
とりあえず、一番扉側に近い席に座ることにした。
ところで、今から”アレ”なことを話すのだが、高西さんがいて話せなくはないか?
追い出すのだろうか。

「もっと、チコー寄れ」

会長は、奥の席にボンッと座ると悪いことを考えているお代官様の様な感じで言ってきた。

「はい!」

席を移すことにする。
次は、一番前の席だ。
椅子を横にして会長の方を向くと、会長の横に高西さんがいてなんだか面接を受けるかのような位置取りだ。

そこで、高西さんが顔を上げた。

「ところで、どうして会長と在月くんが一緒に?」

当然の疑問だが、ここは素直に答える訳にはいかない。
なのでここは茶化すことにする。

「実はな高西…俺と会長は禁断のかんけ…」
「シンヤが生徒会に入るんだって」

会長が俺の声に上乗せするように、声を上げた。

「キン…ダ…ン?」

「何言ってるのよ、ミケコ。シンヤが生徒会に入ってくれるってだけだよ~。ねー、シンヤ」

「ハイ!その通りでございます会長!サー」

そうだ、俺はなんてことを言おうとしてしまったんだ。
会長もそのことを知っているから、恐らく察したのだろう。

最近の話なのだが、学園内で抗争が勃発した。
その内容は鬼塚派と出茂派に分かれた生徒間のくだらなくも恐ろしい大変なものであった。
聞いての通り、鬼塚鼎と出茂零子の2人はこの学園のアイドルであらせられる。
実際に、入学時には既にファンクラブも結成されていたという。
はじめ両派閥には、落ち着きがあったようだ。
しかしある時、その均衡が崩れたのである。
両名とも男女共に人気があったので、学園のほとんどの生徒が巻き込まれたことになる。
その抗争は1週間ほど続き、後に7日間戦争、聖女戦として学園の歴史に深く刻み込まれたのだ。

戦いを収めたのは、そのことに嘆いた鬼塚 鼎と出茂 零子その人達であった。
2人は戦いをやめさせる為、共同声明を発表。
その翌日には、学園に「祝勝 鬼塚鼎様 出雲零子様 感動をありがとう」などと書かれた大段幕が張り出されもした。
もちろん教師には無断である。

とにかく、そのようなお方と自分が冗談でも禁断の関係なんて言ってしまえば半殺し決定だろう。
しかも、言う相手が高西となれば冗談も通じない。
危ない危ない、禁忌を犯すところであった。

先輩のほうを見ると、こっちを見ながら笑っていた。

だが、目が笑っていない。

こえええええええ!

この感じ、どこかで…。
ま、気のせいだろう。

高西は已然、首をかしげていた。

「まったく、今度から発言ははっきり言いなさいよ!」

「了解しました!」

「よろしい。では本題に入ろうか」

「はい」

いよいよか。
でも、高西がいる前でいいのだろうか?
まさか、高西もこの状況を把握しているのか!
でも、俺が生徒会室に入ってきたことに驚いていたようだし、そんなわけがない。

「シンヤ…」

会長は、高西がここにいることを忘れてしまったのか!!
恐らく会長の中で生徒会室=高西がいて当たり前みたいになっているんだ。
人が歩くことと一緒で当たり前だからこそ意識できない。
そうだ、それしかない!

「会ちょ…」

高西が!高西が横にいます!?

「生徒会へようこそ!!」

またも元気のいい声を出す会長。
思わずコケそうになる。
これは、何かのお笑い番組かなにかだろうか。

「フフ」

笑い声が聞こえた。
声が聞こえたほうに視線をやると、無表情の高西がこっちを見ていた。

「高西、今笑ったか?」

「さぁ」

高西は短く答えた。
こいつ、絶対笑ったな。

視線を落とすと、本は閉じられていた。
本の表紙はブックカバーにさえぎられ見れなかった。

「三毛子」

「え?」

いきなり言われたのでびっくりしてしまう。

「三毛子でいい」

どうやら、呼び方を変えてほしいようだ。

「わかった、よろしくな三毛子。俺も好きに呼んでいいから」

なんだか少し恥ずかしくなった。

「うん、よろしく。しんや」

三毛子はそう短く答えて下を向いた。

「シンヤ、さっそく三毛子を手玉に取るなんてなかなかのやりてね」

そこで、会長が割り込んできたことによって、沈黙が続くことはなかった。

「そんなんじゃないでしょ!」

「はいはい、わかってますって。あと、私のことはすきに呼んでいいから」

どうやら会長も会長で呼び方改編を御所望のようだ。

「では、鼎さんと呼ばせてもらいます」

「よろしい!では、改めてよろしく」

三毛子のほうは下を向いたままコクリと頭を下げた。

「こちらこそ」

と改めてよろしくした。
よろしくしすぎじゃないか?
ま、はじめはこんなもんか。

「じゃあ、さっきのことについて話をするわ」

ついに来たか。
今度は鼎さんも真剣な表情である。

「お願いします」

思わず、息を飲む。

三毛子も首を上げている。
て、三毛子がいる!

「あぁ、ミケコなら大丈夫。こっち側の人間だから」

「え?」

最初に破棄した考えが当たっていたとは思いもしなかった。
思わず三毛子のほうを見る。

「うん」

三毛子は言いながら小さくうなずいた。

「てな訳で、同伴は大丈夫。さっきのシンヤのきょどり具合は面白かったわ」

気づいてたのか!
なんだか、図られた感じだ。
うなだれる俺。

「フフ」

また、笑い声が聞こえた。
負けるか!
さっきよりも早く三毛子のほうを見る。
反射ともいえるべきスピードだったはずだ。
しかし、三毛子は無表情だった。
一応聞いてみる。

「三毛子、今笑ったか?」

「さぁ」

確信犯だ!
なんだか悲しくなってきた。

「はいはい、今から重要な話するよ~」

諦めて、今はこっちの話を聞こう。

「ぜひ」

そして鼎さんは、まず初めに、とおいて
「この学園には”あるもの”があって、私たちはそれを守っているの」

「”あるもの”?」

「その中身は言えないけど、そのために私たちがいるの」

その為にいるとは中々すごいが、それなら体育館での体術にも頷ける。
実際に見たわけではないが。

「私たちって、三毛子もって事か」

三毛子のほうを見ると、頷いて答えた。
なんという、武術集団。

「そゆこと。あと筒島先生もね」

「なるほど」

それで、体育館にいち早く来たわけか。
合点がいった。

「そして最近、その”あるもの”を狙ってくる輩が現れたの」

「それが、ハジメだって言うんですか?」

「操られていたって言ったでしょ?」

忘れていた。

「ああ」

「前々からそういうのは居たんだけど、ここ最近は多くなってきてるわ」

「それを対処するのが、鼎さんたちってことですね」

「そゆこと。ハジメくんだっけ?彼はその敵の操作、いわゆる催眠術みたいなものにやられたのね」

「催眠術?」

「そう、催眠術。正確には操作。人は通常、本来出せる力の何分の1にも満たない力で行動してるわ。
その足かせをその操作によって外していたの。その結果があの怪力ね」

鼎さんは、俺にもわかりやすいように説明してくれているようだ。
道理であり得ない力だと思った。
しかし、逆に考えると人間も本気を出せば体育館の倉庫を鍵が掛っていても開ける事ができるということだ。
なんだか恐ろしいな。

「なるほど。ハジメはその、操作を受けていたのか」

一体誰がハジメをそんな目にあわせたのだろうか。

「ええ、彼は暫く動けないでしょう。私も手加減して急所は外しておいたから重症にはならないはずよ」

「はぁ、よかった」

それだけ聞けただけでも、だいぶ安心できた。

「後、面倒な手続きとかは、筒島先生がしてくれるはずだから」

筒島か、まさか自分のクラスに1人、いや2人もそういう人がいたとは。

「というわけで、わかったかな?」

正直信じがたいが、実際にハジメの怪力を体験していたので頷くしかなかった。

「生徒会役員は、みんな知っているんですか?」

「知らない。基本的に口外御法度。」

三毛子さんが淡々と答えた。

「生徒会役員ていっても、私たち執行部以外はみんな委員長でいつもここに居るわけじゃないからね」

「なるほど、でもそんな大切な事を俺に話しちゃっていいんですか?」

「そりゃ、あんな事を他の人に広められたら困るからね。理解してもらったほうが早くて安全よ。なにより説明を求めたのはあなたでしょ」

たしかに鼎さんの言うとおり、もし他の生徒に喋ったりしたら学園は混乱するだろう。
いや、その前に俺が生きていたかすらわからないな…。

「秘密を知っているのは、しんやを含めて4人だけの、筈…」

三毛子は歯切れを悪くして言う。

「筈?」

「ミケコの言う通り”筈”なの。今回、学内で事件が起きたでしょ?もしかしたら、学園関係者が関わっているかもしれないの」

「この学園にそんな危険な人物が居るかもしれないって事ですか?」

「そう、教師や生徒もしくはこの学園の卒業生という可能性だってあるわ」

鼎さんは椅子をくるりと回転して外のほうを向いた。

「むしろ学園内のほうが怪しい」

三毛子は学園関係者を疑っているようだ。

「まぁ、一概にそうとは言い切れないんだけどねぇ」

外を向いたまま鼎さんは呟いた。

学園の外から侵入か。
そこで朝の光景を思い出した。

「そうだ!学園前にある桜の木が折れてて、壁に窪みができてたじゃないですか。もしかしたら犯人が学園内に潜んでるのかも」

「多分それはない。桜の木が折れたのは別件よ」

まるで、その光景を見てきたかのように話す会長。

「別件?」

「話が面倒になるから、また今度にするわ」

俺も聞くような真似はしたが、これ以上未知の世界を知ると眠れなくなりそうなので続けて聞くようなことはしなかった。
三毛子も眠いのか、下を向いていて表情が確認できない。

「さて、話も終わったことだし!早速お菓子パーティよ!」

勢いよく椅子から立ち上がる鼎さん。
光を全身に受け、後光が差しているみたいだ。

「そうですね、重い話の次はお菓子パーティにかぎりえええええええええええええええ」

三毛子の肩が動いた気がした。

「何よ。なんか文句あるの?」

鼎さんは、ほっぺたを膨らましながら言ってきた。

「いえ、ありません…。でも、今日はもう下校時間で珠も待ってかもしれないので帰ります」

「珠?」

「ああ、神山珠。俺の幼馴染で義理の兄妹です」

「神山…なるほどねぇ。じゃあ、タマちゃんも連れてきなさいよ」

いきなりの提案に驚く。

「ええ?いいですけど、教室に居るかなぁ」

あれから、随分時間がたっている。
もしかしたら、先に帰ってしまったかもしれない。

「居ると思う」

三毛子が顔を上げて答えた。

「だな」

珠のことだ、待ってるに違いない。

「私が教室出る前に、信也を待つ、て言ってたから」

「決定ね」

それでは、やはり珠を待たせているということか、急がなくては。

「ちょっといってきます」

「いってらっしゃ~い」

ニコニコしながら、見送る鼎さん。
その横には椅子に座ったままの三毛子。

2人になった生徒会室で鼎が呟いた。

「神山境の娘か…」

「かみやまきょう?」

きょとんとする、三毛子。

「獅子火 境(ししび きょう)。この学園創立以来、最強といわれた生徒会長よ」

 

生徒会室でのお菓子パーティに参加することになった、信也と珠。
生徒会には美人で人気のある生徒会長の鬼塚鼎、物静かだが一部の人間から絶大な人気を誇る高西三毛子がいる。
そんな2人と仲良さ気に話す信也。
それを見て唖然とする珠。
珠の何かが揺れ動く!

「珠、いったい何を!?」
「鬼塚会長…お話があります」

髪が風に靡く時~Divine wind~  4 ‐揺れる火は何になびく?‐

「神山鏡…獅子火 境(ししび きょう)は学園創立以来、最強の生徒会長だといわれているわ」
「最…強?」
鼎は、三毛子を見据えて話す。
「そう、最強なの」
「強いのね」
三毛子は鼎のただならぬ話し方に軽く身構えたが、

「さぁ、強いのかわからないし、どんな風に最強だったかも分かんないんだよねぇ~」

急にふにゃんとなる鼎。

三毛子の眼鏡に光が入って目が見えなくなった。

2人きりのときはよくあることだ。
こういうのも信頼の証(?)なのだろうか。
仲良くなると普段人に見せないようなことを、相手の前でするようになると言われているが、この場合どうなのだろう
少なくとも、自分は鼎に対して周りの人よりオープンのつもりではいる。そして、今日もう一人―――
三毛子は軽くうな垂れていた心のペースを元に戻す。

「最強なのね」
と、三毛子が一言。
「最強なのよ」
鼎もそう結論づいて2人の会話に終止符を打った。

———————————————————————-

「わりぃ、待たせたな」

生徒会室を出て、俺はまっすぐ教室へ向かった。
教室には、ほとんど生徒は残っていなかった。

「いつまで待たせる気よ」

しかし、珠は残っていたので一安心だ。
ただ、表情がちょっと怖い。

そして続けて、
「心配したんだから・・・」
と小さな声で一言。

「本当にすまんな、ハジメのことは聞いてるか?」
「ええ、何でも階段から落ちて怪我したって」
「らしいな」
「大丈夫かな?」
「あいつの事だ、大丈夫だろう」

筒島による情報操作が行われているのか、ハジメのことは”階段から落ちた”ということになっているらしい。
慎重に話をあわせないと口が滑ってしまうだろう。
しかし、改竄の内容は簡単なので間違えることはないはずだ。

鼎さんから話を聞いていてよかった。
実際に見てきたと証言する俺と学校の教師の話で食い違いがあれば、間違いなく生徒たちに不信感が生まれるだろう。
抗争を起こせる程の奴らなので不審の種は元から無くすに越したことはない。

俺は早速、生徒会に貢献してるのか。なんと仕事熱心なんだ、俺!

「ん?生徒会がどうかしたの?」

あれ?今声に出てたのか、俺…
というより本来の目的を忘れかけていた。

「俺、生徒会に入ることになったから」

「はぁ~?どうして、ハジメを追いかけていって信也が生徒会に入ってくるのよ。わけ分かんないわ」

あぁ、どう話そう…。
珠に理解してもらうにはどう説明すればいいのだろうか。
とりあえず、パッと浮かんだ単語を言ってつなげていこう。

……いや無理だ、頭の中では全く関係ないことでいっぱいになっている。
関係ないこと広場である。コアラ、三角縁神獣鏡、縞々、★★★、などでイパーイ、イパーイ。

いや、考えろ!考えるんだ!

そして、ようやく
「鼎さんと三毛子にスカウトされたんだよ」
と答えて、すがすがしい気持ちになる。
完璧だ、スカウト―――こういう簡単な言葉を出すのに大変時間がかかる経験はよくするが、今回も簡単な問題だったぜ。
焦らせやがって。

しかし、球は依然ジト目のままでこっちを見ていた。

「そう、スカウトされたんだ」

俺は大変なことを忘れていたのだ。

「そうそう、ハジメの事で話が終わった後に…」
「鼎さんと、三毛子、に?ずいぶんと仲がよくなったのね…」

何故か、名前の部分が強調されていた。

しまった、2人との仲が急速に近くなったことが!
しかも、片方は攻略が難しいとされるあの三毛子だ。
今日の朝まで、苗字で呼んでいたのにいきなり名前で呼ぶなんて。
そう考えると、今日の三毛子は結構アグレッシブだったよなぁ…

そんなことはどうでもいい、今はいい訳だ!言い訳を考えよう。
これはすぐに思いついた。

「いや、な、自己紹介したときにそういう風に呼ぶように、て言われたんだ」

言い訳とは、まったく情けない。
しかし、必要なときはしなければならないものでもある。

「なに、あたふたしてんのよ」
ちょっと拗ねた風に球が言った。

「あ」
確かに、俺は何故こんなにあたふたしてるのだ。これではまるで―――

「で、どうするの?」
何かを思考しかけた時に球が話しかけてきた。

「あ、あぁそうだった。この後、お菓子パーティーをするらしいんだ」

「そう、じゃあ私が待ってた意味なかったね。先に…」

球はくるりと回って俺に背を向ける。

「それなんだが、球も誘うという話になってるんだ」
あえて、球の話を打ち切るように話す。
そうしないと気まずくなりそうだ。

どうするか尋ねると。
しばらく俺に背を向けたまま下を向いたあと。

「いくわ」
なにかを決意したように答えた。

「お菓子を食べに!」

そっちかよ!と突っ込もうとしたが、やめておいた。


AJのつぶやき「なんかまとまんねぇな…」

「ただいま戻りました」

「失礼します」

いつも俺より前を歩く珠だが、緊張しているのか後ろに続いて部屋に入ってくる。

「もぉ~、遅いぞ~準備万端過ぎて困ってたとこだね」
鼎さんは毎度のごとく頬を膨らまし文句を言ってきた。

机の上には、どこから出してきたのかホットプレートや電気ポットが出してあった。

三毛子の方を見ると、丁度棚に何かを直すところであった。
口元がどことなく、笑っている気がする。

?何だろう?今、一瞬しっぽのようなものが見えたような…?

というか…三毛子が笑っているだと!?
もう一度、表情を見てみたがいつもと変わらずだった。
幻覚か?俺は疲れているのか?

棚の扉を閉めて、さっき座っていた椅子の方に戻ろうとした三毛子は、何かに気づいたように棚に戻って鍵をかけた。
そして、三毛子はこちらを向き驚きの表情を浮かべ、1メートルほど飛びのいた。

いや待て!驚きすぎだろ!
というか、気づいてなかったのか!?
さっき、鼎さんと会話してたじゃん。

「お、お帰り!いつから帰ってたのかなぁ~えへへ」

もはや三毛子というキャラではなかった。
今こいつ、”えへへ”て言ったよな!しかも、言葉じゃ表せないような気持ち悪さを感じた。
大きな声を上げたからではない。
棒読みだったからではない。
無表情だったからではない。
でも何故か気持ち悪く聞こえた。
あと一言だけ、三毛子はキモくない!

いつの間にか、三毛子の顔面が目の前に来て。

「見た?」

三毛子が今まで俺に見せてくれたことが無かった、屈託のありまくる威嚇の表情を向けてくれていた。

こええええええええええええ!!!!!

「何も見ておりません!三毛子様!サー」

前にもあったよなこのやり取り。
どうやら俺の生徒会での立ち位置が決まったようだ。

本当に何も見て何のになぁ…しっぽ(?)しか。
―――ゾクゾク。殺気!
体が勝手に横へ飛びのく。
その先には何故かバナナの皮があり…。

「イテッ」

バナナッて本当にこけるんだな。

こけて仰向けに

———————————————————————-
何事も順序って大切だよなぁ。
順序を間違うだけで最後までたどり着けないゲーム。
1から10を順番どおり数えるためには2から9を数えなければならない。
人は、ほとんど全てのことに対して初心者だが、その基礎を学ぶことにより初級者になれる。
いきなり初心者から上級者にはなれないのである。必ず、初級者・中級者を経験することとなる。
何事もプロセスが大切なのだ

いきなりの問に、理解できずにいたが頭の中は、今まさに生まれてきたかのようにリフレッシュしていたので。

「何のこと?見てないと思うけど」

と答えた。
三毛子は何が言いたかったのだろうか?
珠を呼びに言って。
生徒会室に来て。
鼎さんに軽い愚痴を受け。
ポット…そうだ!俺はポットを見たんだ。

そしてすかさず

  • 投稿者:えーじぇんと
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